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『君に会うまでは』 第十六章「誕生」 4

<前回まで>
『君に会うまでは』 第十六章「誕生」 3

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 分娩室から出てきて、はじめて生まれてきた我が子と対面する。小さなゆ

りかごのような中で、顔を赤くして精いっぱい泣いている。とても小さくて、

弱い存在だけど、精いっぱい自分の存在を主張しているようにも思えた。

 ほんのわずかな対面の時間を終えて、看護師に連れられて行ってしまった。

しばらくして、彼女もストレッチャーに乗せられて出てきた。意識はしっか

りしていた。彼女の瞳には涙の跡があった。僕はくしゃくしゃに顔を歪め、

親指を立てて無言で彼女に感謝した。

 五体満足にこの世に生まれてきてくれたことに、感謝の気持ちでいっぱい

だった。こんな自分でも父親になれたんだ。とてもそのような実感はなかっ

た。今までの人生は自分のためにだけ生きてきたみたいなものだった。これ

からは家族のため、人のために生きていきたいと心の中で強く感じた。

 しばらくして、看護師から再会が許された。赤ちゃんが並べられている部

屋は、ガラス越しに覗けるようになっていた。もう夜も遅かったので、そこ

には誰もいなかった。母親の名前と体重が書かれたカードが付けられた籠の

中で、さっきと違ってすやすやと安心して眠っているようだ。大きな総合病

院の中でも、ここだけ何の混じり気もない、ただ生きることだけの純粋で強

いエネルギーのようなものを感じる空間だった。


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