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『君に会うまでは』 第十六章「誕生」 3

<前回まで>
『君に会うまでは』 第十六章「誕生」 2

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 心のどこかで、ダメなら仕方ないとあきらめていた部分があったかもしれ

ない。一方で可能性はゼロではないのだし、大丈夫だよと言ってくれた言葉

を信じてもいた。僕自身が今こうして普通の暮らしをしていること自体が、

あたりまえのようでも、ひょっとして存在すらなくなっていたかもしれない

ことを考えると、不思議だった。ましてや結婚して、子を持つことになると

は、20数年前には想像すらできなかった。

 僕と同じ病気になった人たちが、どれくらいの割合で妊娠・出産している

のか。詳しく調べたわけではないけど、珍しくはないのかもしれない。何度

も繰り返すが、可能性はゼロではないのだ。希望を持つこと。それが大切だ。

 彼女も今では妊婦らしく、突き出したおなかが立派だった。定期的な検査

のたびに撮影して、プリントアウトされる超音波写真の画像は、豆粒ほどに

小さかった存在も、今では顔や手などが判別できるくらいにまで成長してい

た。そして、いよいよ今日から出産のために入院する。病気ではないので、

なんだか不思議な感覚だった。それでも初めてのことなので不安ももちろん

あった。僕なんかよりも彼女の方はもっと不安だろうから、少しでも支えて

あげないと。

 そして、待ち望んだ日がやってきた。ベッドに横になって分娩室に入って

いく彼女の手をとって、「ガンバレ」と声をかける。彼女は「うん」と軽く

笑ってこたえた。

 時計の音がやけに大きく感じる。だれもいない待合室での時間はとても長

く感じた。彼女も、生まれてくる命も、今まさに闘っているのだ。

 どれくらい経ったのだろう。閉ざされた扉の向こうから、産声が聴こえた。

誕生だ。



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