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『君に会うまでは』 第十五章「結婚」 5

<前回まで>
『君に会うまでは』 第十五章「結婚」 4

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 ホテルの部屋の扉を閉めて、持っていた荷物を備え付けのスツールに置い

た。それから部屋の中心に置かれたベッドに腰をかけた。

「お疲れ様」短く労いの言葉を彼女にかけた。

「大くんも」彼女もそっと僕のとなりに腰をかけた。

 披露宴の後の二次会がさっき終って、ホテルに帰って来た。長かった一日

だった。今日はここで一夜を過ごして、明日から新婚旅行に行く予定だ。大

勢の方に祝福してもらった。終わってみれば、これまでの煩わしさはきれい

にどこかに吹き飛んでしまった。非日常の主役を演じた一瞬の時間が懐かし

く思えた。

 先にシャワーを浴び終えて、備え付けのバスローブに着替えた。開かない

ホテルの大きな窓からは、都会の街に灯った光が小さく揺れていた。その街

灯がひとつ消えるのが見えた。どこか遠くに来たような気分になった。

 まさかが現実に。どこかで自分の中では結婚はあきらめていたように思っ

ていた。いや、あきらめていたのは錯覚で、ずっと静かに願い続けていたの

かもしれない。無意識の一念が岩をも徹したのだと。

「どうしたの?難しい顔して」

 彼女もバスローブに着替えて、僕のそばにやってきてそう訊ねた。

「ううん、何でもない。今日のことをちょっと思い出してさ」

「そうね。素敵だった。もう一度お祝いしてもらいたいくらい」といって微

笑んだ。彼女のおおらかな性格が僕の乾いた心を満たしてくれるようだった。

「ありがとう」

「ん?」

「ありがとう」と僕は同じ言葉を繰り返した。

「うん。ありがとう。いろんなことに」

「そう。いろんなことに」と言って僕らは軽く笑った。

 それからまた、今日の特別な1日のことを思い出したり、明日からの旅行の

ことについて話した。

 いつしか沈黙が訪れて、僕はベッドの灯りを消した。


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