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『君に会うまでは』 第十五章「結婚」 3

<前回まで>
『君に会うまでは』 第十五章「結婚」 2

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 40回目の誕生日を迎えた。不惑の歳、なんて言われたりすれけど、まだま

だあっちへフラフラ、こっちへフラフラしていたし、自分の守るべきものす

ら何もなかった。思い描いた理想を追い求めていたわけではなかったし、そ

んな理想すら持っていないように思う。春が過ぎ、夏が過ぎ、秋が来て、も

うすぐ今年も冬がやってくる。1年がこんなにも早く過ぎるのかと、また溜

息をひとつ吐いた。

 久しぶりに休みがとれた土曜日、2週間前に知り合いの紹介で会った渡辺

靖子(わたなべやすこ)と会うことになっていた。高揚感というよりかは、

ちょっと面倒だなという気持ちが近かった。渡辺靖子の第一印象は大人っぽ

い、落ちついた女性というものだった。口数も少なく、決して派手さはなか

った。一緒に夕食でも、と東急線の駅の改札を出たところで待ち合わせをし

た。2週間前に初めて会っただけなので、渡辺靖子の顔は憶えているつもり

だったけど、待ち合わせの時間を過ぎても一向に現れなかったので、しだい

に不安になってきた。さっきから携帯電話の液晶画面を見ているけど、連絡

は入ってなかった。次の電車で来なかったら、連絡をとってみようと待って

いたら、ひとりの女性が微笑みながらこちらに近づいてきた。渡辺靖子だっ

た。2週間前に会った時の印象とまた違っていた。

 予約していた店の扉を開けると、店員がすぐにやってきて、奥のこじんま

りとした部屋に案内された。個室のような部屋で、雰囲気は悪くなかった。

 お酒とこの店自慢の魚料理を摘まみながら、お互いを知るために僕らはい

ろんな話をした。仕事のこと、家族のこと、趣味のこと、僕らを紹介してく

れた共通の知人のこと、将来のこと。

 ひとつひとつ言葉を選ぶように話す彼女がそこにいた。それほど多くの女

性を知っていたわけではなかったけど、今まで出逢った女性とは少し違って

るように思えた。まだ猫を被ってるだけかもしれないけど、欲のようなもの

を感じないのであった。

 2時間程、楽しい酒を飲んで店を出た。

 帰りの電車は空いているかなと思ったけど、意外に乗客が多かった。僕と

渡辺靖子は扉の前に立っていた。電車が駅を発車して、次が終着駅だとアナ

ウンスした。

「来週の土日にまた会えるかな?」と聞いてみた。

「うーん、週末は仕事だから…」

「じゃあ、次の休みはいつ?」

「いいよ、別に毎週会わなくったって。若い恋人同士でもないんだし」

 と微笑を浮かべながら渡辺靖子は言った。

 若い恋人同士か…無邪気な恋に落ちるには、もう若くない僕らだったけど、

会っているその時間がお互いの距離を近づけるものだと思っていた。

 駅の改札を出て、自転車置き場まで歩いた。彼女は預けてあった自転車を

取り出そうとしていた。

「また会える?」と僕は聞いた。

「たぶん」と彼女は短く答えた。

「メールするよ」

「待ってる」

 そんな短い会話を交わして、彼女と別れた。しばらく彼女の後ろ姿を見て

いたけど、一度もこちらを振り返ることはなかった。不思議な女性だな、と

ひとりごちた。彼女に惹かれている自身を感じていた。



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