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『君に会うまでは』 第十四章「5年」 5

<前回まで>
『君に会うまでは』 第十四章「5年」 4

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 その日は朝から落ちつかなった。会社のデスクに座って、コンピューター

画面の図形と文字を見ていても、どこか虚ろだった。今頃、病院に着いてい

る頃だろうか。もう結果を聞いている頃だろうか。会社から電話を入れて、

すぐに結果を聞きたい衝動を抑えて、終業のベルがなるまでなんとかやり過

ごした。

 急いで会社の寮に戻る。部屋に入って着替えをする。大きく息を吐いて、

家に電話を入れてみた。数回の呼び出し音の後、母親が電話に出た。

「もしもし、俺」

「大樹か?」

 第一声のトーンで結果が想像できた。ダメか…。

「どうやった、結果…」

「もう1回なんやって…」

「えっ?」

「うん、なんかやっぱり影みたいなんが見えるらしいわ。芳田先生がレント

ゲンの写真移して説明してくれてんけどな。私ら見てもようわからんかった

けど…」

「もう1回って、またそっち行って再検査するってこと?」と僕は訊ねた。

「うん、できるだけ早いうちにって」

 結果が先延ばしされて、弄ばれているようだった。でも、はっきりと再発

したといいきれないのだ。限りなく疑わしいことだったとしても、まだ決ま

ったわけではないのだ。再々検査のための帰省の日取りを母親に伝えて、受

話器を置いた。



 3度目の検査のために、また新大阪行きの新幹線に乗っていた。どうして

またここに居るのだろう。そんなことをぼんやりと考えていた。

 病院について以前と同じCT検査を行う段取りだった。もう要領はつかめ

ていた。手慣れた定型作業をこなすように、その検査を受けた。ここ1、2

ヶ月でこんなに放射線を浴びていいのだろうか、と少し不安にもなる。いつ

かもこんなことを考えていたなと既視感に似た感覚があった。

 CT検査の後、泌尿器科外来で名前を呼ばれた。診察室に入って丸い椅子

に腰掛けた。耳の下や脇の下のリンパ節などを触診される。

「何度も来てもらって悪いね」

 と主治医の芳田先生は言った。



 それから1週間が過ぎて、また検査の結果が伝えられる日がやって来た。



「大樹か?行って来たで」

 電話の向こうの声のトーンが違っていた。

「影、写ってないって。問題ないって」

「そうか…」

 と僕は短く答えた。

「問題ないようなんで、また半年後に検査に来て下さいって」

「そうか、うん、よかった」

 不思議だった。さすがに覚悟は決めていた。でも結果は肩透かしをくらっ

たようにあっさりしたものだった。この2ヶ月の気苦労への労いと感謝の言

葉をかけて、受話器を置いた。

 この約2ヶ月はいったいなんだったんだろうか。その時、何故だか知念光

太郎の姿が目に浮かんだ。大学の頃と違って、何かを悟ったように話す姿が。

宇宙にリズムがあると知念光太郎は行っていた。病気になるのはこのリズム

と微妙なずれがあるのだとも。宇宙のリズムがあるとしたら、いったいどう

すればそのリズムにのることができるのだろう。そして、ここ数日感じてい

たことが、また強く甦ってきた。知念光太郎が大阪から3度訪ねて来てくれ

たのと同じだけ、僕は検査のために、東京から大阪へ向かわなければならな

かった。まったくの偶然のことなんだろうけど、何か意味を持って起きた出

来事のように感じていたのである。


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