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『君に会うまでは』 第十四章「5年」 4

<前回まで>
『君に会うまでは』 第十四章「5年」 3

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 新幹線の窓から見える景色がフラッシュバックのように流れていった。再

検査のために実家に向かっている車内のシートに身を預け、ぼんやりと車窓

を眺めていた。つい半月程前にも実家に帰ったところでもあったし、目的が

検査のためだったので、心も曇りがちだった。となりの席に座った親子連れ

はきっと遊びに行くのだろう、笑顔と嬌声が絶えなかった。同じ列車で同じ

行先を目指していても、残酷なまでにそれぞれが抱えている状況は違うのだ。

 実家の最寄りの駅に着くと、父親が車で迎えに来てくれていた。荷物を後

部座席に乗せて助手席に座る。車が発進して家への見慣れた道路を走る。も

ともと無口な父親は車の中でもひと言も発せず、終始会話はなかった。

「ほんま何なんやろなあ」

 と沈黙をやぶるように僕はつぶやいた。聞いているのかどうかわからない

が、こたえはなかった。僕はちらっと父親の方を向いて、またすぐにフロン

トガラス越しに広がる片道2車線の行く先を見た。それからはずっと沈黙の

まま家に着いた。

 母親が出迎えてくれて、持っていたバッグを受け取ってくれた。

「ごくろうさん。体大丈夫か?」

「うん。いたって問題ないんやけどなぁ」

 と言葉を交わして顔を歪めて笑った。

 少し家でゆっくりしてから病院に向かった。土曜日の午後の病院は人もま

ばらだった。外来窓口に検査で来院したことを告げると、放射線科の扉の前

で待つように指示された。放射線科の扉の前にある長椅子に腰をかけた。病

院のリノリウムの廊下を看護師が歩いていた。後ろ姿を目で追いかけてみた

けど、見覚えのあるシルエットではなかった。

「田島さん」

 とアナウンスがあって、検査室に誘導された。見覚えのある大きな機械が

目の前にあった。ガラス越しに放射線技師が見える。着替えをして、機械に

横たわるようマイクを使って指示された。それからはいつもと同じだ。一定

の間隔で体を輪切りにされた。

 せっかく帰省したのでゆっくりしたかったけれど、土曜日だけ家に泊って、

次の日の朝に東京行きの新幹線に乗って帰って来た。



 月曜日、帰省の疲れと不安定な気持ちを抱えて、仕事に出かけて行った。

結果は今週の金曜日に、また母親が病院に聞きに行くことになっていた。結

果が出るまでは落ちつかなかった。もし、今回も影が写っていたら…。せっ

かく手に入れた会社生活もこちらで知り合った友人も失ってしまうかもしれ

ない。考えたくはなかったけど、その可能性も持っていなければならなかっ

た。

 そんな日々を送っていたある日に、また知念光太郎から電話があった。そ

していつものように会う約束をした。

「最近はこっちの仕事が多いねんな」

 とビールのジョッキをテーブルに置いて、僕はそう訊ねた。

「仕事とはちゃうねん」

 と知念光太郎は僕の顔を真っ直ぐ見て答えた。

「仕事とちゃう?ほんなら何やねん」

「お前のことが心配でな。再検査になったって言うてたし」

「そうなんか…ありがとう…でもわざわざそのために来てくれたんか?電話

でも良かったのに」

「すまんな。なんか気遣わせてもうたな」

「いやいや、うれしいよ。結果は金曜日にわかるっていうてたけど。今は神

さんでも仏さんにでもすがりたい気分やわ」

 と僕はおどけて話した。

「困った時の神頼みか」

「この前、知念がなんか宗教っぽい話してくれてたしな」

「別にそんなんちゃうねんけど、でもある意味哲学的な話ではあるかもな」

 といって知念光太郎はテーブルの上のジョッキを持って、ビールを飲んだ。

「俺がこんなこというのもなんやけど、今の世の中って、なんか軽くて薄っ

ぺらくて、時々このままでええんかな、て思わへんか?それで、自分なりに

生き方っていうか、哲学的なことも勉強してみると、これがまた奥が深くて。

それって科学的に解明されてるんか?なんてよくいうけど、世の中のこと

なんて科学的に解明されてることなんて、ほんのわずか、1%もあるかない

かなんちゃうかな」

 そう話す知念光太郎の顔を見て、黙って二、三度軽くうなづいた。やっぱ

り大学の頃の知念光太郎とは別人のように見えた。

「宇宙には宇宙のリズムというのがあって、ものすごく端的にいうと病気に

なるっていうのは宇宙のリズムと自身とに微妙にずれがあるんやと思う。で

も病気になること自体が不幸やないと思うねん。それはひとつのきっかけで

あって、ある意味チャンスでもあるんや」

「チャンス?」

「だから田島には何があっても悠々と生きて、宇宙のリズムにのって幸せに

なってほしいと思うねん」

「ありがとう、励ましてくれて。なんか元気もらったみたいやわ。宇宙のリ

ズム、そんなんあるんかなぁ。で、知念はどうやねん、乗れてるんか?」

「あかん。偉そうに言うてるけど、俺かって聖者でもなんでもないんやし」

 そういって知念光太郎は顔を綻ばせた。



 そして問題の金曜日がやってきたのである。



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