http://admin.blog.fc2.com/control.php?mode=design

『君に会うまでは』 第十四章「5年」 3

<前回まで>
『君に会うまでは』 第十四章「5年」 2

---
 知念光太郎と再会してから数日経ったある日、実家から電話があった。

「大樹、元気か?」

「うん。どないしたん?」

「あんな、今日病院に行って来て結果聞いてきたんやけどな…」

 そう話す母親の声は妙に暗かった。

「影みたいなんが写ってるんやて」

「影?」

「うん。それでもう一回調べてみたいって。そんなん言われても簡単に帰っ

てこれませんねん、って話したんやけど…」

「どこに影が写ってるって?」

「なんやいくつもCTの写真見せてくれたけど、どこかまでは言うてくれへ

んかったかな…」

「影か…そうなんや…」

 まったく気にしていなかったので、何かで殴られたような衝撃だった。こ

れまで数回同じような検査をしてきてけど、こんなことを言われたのは初め

てだった。でも仕方がない。まだ、疑わしいだけなのだろうから、もう一度

検査をしてはっきりさせないと。今週末は予定があったので、来週の週末、

帰省することを告げて、検査の予約を入れてもらうことを母親に頼んだ。

 電話を切ってからも、なんだか落ちつかなかった。体調的にどこか悪いと

ころがあるような自覚症状はなかった。

 次の日、近くの書店にいって、分厚い医学書を書棚から手にとって開いて

みた。巻末の索引から睾丸腫瘍のページを調べて開いてみる。他のがんと比

べてあまり詳しくは載っていない。小児に多いがんで、化学療法での治療の

予後は比較的良いと記載されいてる。それでも安心はできなかった。早く検

査してもらって、その影の正体をはっきりさせたかった。まだ来週末までに

は日にちがあった。



 それからは不安定な日々が続いた。いよいよ検査のために帰省する日が近

づいた平日の夜に、電話が鳴った。知念光太郎からだった。

「今、東京に来てるんやけど、明日の夜、また会われへんか?」

「明日か?」

 あまり会って話す気分でもなかったけど、仕事のついでかもしれないけど、

わざわざ大阪から来て誘ってくれたので、会うことを約束した。

 次の日の夜、また駅の改札で待ち合わせた。そして、また同じ居酒屋に向

かった。週末に検査を控えていたので、飲み過ぎないよう注意して1杯だけ

ビールで乾杯した。

「なんかあったんか?元気ないみたいやけど」

「えっ?そうか…実はな…」

 といって再検査の話をした。

「そうなんや。それは心配やなぁ。でも田島、これもなんか意味があるやろ

うな」

「意味?どんな意味やねん?知念、おまえにとってはそりゃ他人事やもんな」

 そういって、グラスに残っているビールを飲み干した。知念光太郎がビー

ル瓶を持って空になったグラスに注ごうとするのを制止した。

「田島、この前会った時に話したこと憶えてるか?」

「ん?」

「おまえが病気したのって、偶然でもなんでもなくて、お前自身が望んだこ

となんやで、という話」

「知念、あのなぁ…なんでそんな苦しいこと自ら望むねん。それに俺自身、

そんなこと望んだ覚えもないし、なんでお前にそんなことがわかるねん。俺

の生活が乱れてたんが原因で、自業自得っていいたいんか?」

 気づけば少し強めの口調になっていた。知念光太郎はそれでも微笑を携え

た表情でこう話した。

「田島、おまえ3か月の闘病体験で何を得た?3か月も苦しんでお前、何を

学んだ?普通の人がなかなか経験でけへんこと、経験したんやぞ。お前にし

か見えへん、感じへんことがあったやろ?」

 知念光太郎は僕の言葉を待ってから、さらに続けた。

「目の前に起こることにはみんな意味があって、それをただ漫然と受け止め

てるんやなくて、お前にしかでけへん、お前にしか語られへんことがあんね

んって。それが言うてみたらお前の使命っていうやつやねんぞ」

 そう話す知念光太郎は大学の頃の軽くて薄っぺらい同じ男には見えなかった。

なにか詐欺師にうまく諭されているようにも思えたけど、不思議とスッと心

の中に知念光太郎の言葉が入ってきた。


スポンサーサイト

Comment

Leave a Reply


管理者にだけ表示を許可する

Trackback

2012/06/22 (Fri) 07:42

『君に会うまでは』 第十四章「5年」 2--- 知念光太郎と再会してから数日経ったある日、実家から電話があった。「大樹、元気か?」「うん。どないしたん?」「あんな、今日病院に行って来て結果聞いてきたんやけどな…」 そう話す母親の声は妙に暗かった。「影みたい?...

まとめwoネタ速neo - http://polly-wood.info/matome/k/kizi/2868021/?guid=on