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『君に会うまでは』 第十二章「復学」 2

<前回まで>
『君に会うまでは』 第十二章「復学」 1

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 夏休みが終わって、大学の後期日程が始まった。夏休みの間は、徐々に普

通の生活に体を慣れさせようと努力した。朝は早くに起きて、きちんと朝食

をとった。近くを散歩したりして、軽い運動も行った。昼食をとった後に、

小一時間の昼寝も日課だった。その後は、まだ真新しい大学の教科書を読む

ことも忘れなかった。夜はテレビを見たり、お気に入りのレコードを聴いた

りして、早くに寝床についた。薬の副作用で斑になった頭髪も、少しは違和

感がなくなってきたように思えた。でも、毎日気になって鏡の前に立っては、

そこに映し出される自分の姿を見るのが習慣になっていて、ただ単に見慣れ

たからかも知れない。

 朝の満員電車はさすがに慣れていなかった。まだ、残暑が厳しく、車内は

冷房が効いていたけど、背中を汗が伝うのを感じた。わざと変わったように

話しているように聞こえる車掌のアナウンスで「お身体の不自由な方に座席

をお譲り下さい」というフレーズが心に残った。以前にも同じことを感じた

既視感の中、自分は体の不自由な方に該当するのだろうか?そんなことを考

えながら、満員電車に揺られていた。

 教室には懐かしい顔があった。なんだか照れくさいのは、小学校の夏休み

の後と変わらない気がした。日焼けした顔もあった。妙に大人びた顔もあっ

た。色白で髪が短くなった自分の姿を見て、少し驚いた表情を見せる者も中

にはいたけれど、概して何事もなかったかのように皆、接してくれた。

 一日目の授業を終えて、復学にあたって最も気がかりだった、必修科目の

授業を欠席していることについて、学務部長で、その授業も担当している下

田助教授を訪ねることにした。下田助教授の部屋の扉をノックして中に入っ

た。夏休みに入った深井教授の部屋と違って、演習室も兼ねているためか、

倍以上に中は広かった。研究室員らしき学部生が数名いて、縦型のディスプ

レイの前でキーボードを叩いていた。

「あのー、下田助教授いますか?」と尋ねてみた。

 黙ってキーボードを叩いていた神経質そうな男が、首だけこちらに向けて

「奥に」

 とボソっと短い答えが返ってきた。

 軽く会釈をして、指示された奥に進んだ。奥には窓ガラスを背に椅子に腰

掛けている4、50歳くらいの男がいた。頭髪は整髪料で整えられていて、

体格も良く、肌に艶があった。表情は柔らかく、人懐っこいように見えて、

見方によってはギラギラしたようなものが体の中から発散されているように

も感じられた。この人が下田助教授か。

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