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『君に会うまでは』 第十一章「別れ」 5

 学生時代に睾丸腫瘍(精巣腫瘍)の宣告を受けて、目の前が真っ暗になっ
た経験を持つ筆者の闘病記を題材に、限りなく実話に近いかたちで書き下ろ
した物語です。
 自らの恥部を披露するようで、また、拙い駄文をつづることも恥ずかしい
のですが、同じ病気で闘病中の方などに勇気と希望を少しでも与えることが
できればと思って執筆しています。


<前回まで>
『君に会うまでは』 第十一章「別れ」 4

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 はやる気持ちを抑えて、大事に封筒を部屋まで持ち帰った。誰もいないこ

とを確認して、封筒の封を切った。中には複雑に折り込まれた1枚の便箋が

入っていた。



だいちゃんへ

 やっと入院生活も終わりましたね.

 あとはしばらく通院すればもう大丈夫!

 私も安心できそうです.

 手紙に「色々な事を考えてしまう」とか

 TELで「死ぬ」とか、まるでもうだめみたいな

 言い方するのでびっくりします.

 ずいぶん気が弱くなったのネ.

 あとは気を大きく持って、体力をつけるためにも

 たーくさん栄養のあるものを食べてくださいね.

 あなたの希望どおりだるまを作ったし

 大切にお守りにして下さればうれしいです.



 手紙に「恋わずらい」と書いてあったけれど

 うそやでー.ちゃーんと目の前で本気で言うまで

 ぜーったい信じてへんもん!

 今はあなたの看護婦でいたいと思います.



                     bye みか




 決してきれいとは言えない、万年筆で書かれた見慣れた文字を何度か読み

返した後に、大きく息を吸って、ふぅ、っと息をついた。文面からは余所余

所しさや距離を感じた。同封したカセットテープのことについては、残念な

がら一切触れられていない。

 もうだめなのかな?

 考えてみれば、彼女は立派な社会人であり、自分は何も持たない学生だ。

しかもまともな学生ではなく、将来も見えない病み上がりだ。いったい何が

できるというのだろう。やっぱり、彼女のやさしさは看護師としての普通の

振舞いだったのだろうか?いや、でも彼女はいつかの手紙で、病人でも好き

と言ってくれた。その言葉にどれだけ励まされ、生かされたか知れない。だ

から、今はもう熱が冷めてしまったのかもしれないけれど、束の間でも愛さ

れていたことを信じたかった。

 でも、最初から何もなかったのかもしれない。それなのに、勝手に恋患い

や何だと言って、彼女のことも考えずに、自分の気持ちだけで彼女に甘えて

いたのだ。きっと彼女も迷惑しているはずだ。

 ほんとに自分勝手な男だと反省した。手紙のとおり、今は看護婦と患者で

いよう。病気がすっかり完治すれば、気兼ねなく彼女に会えるだろう。あと

半年ぐらいかかるだろうか。来年の春、桜の季節になれば、きっとすべてう

まくいくはずだ。

 そんな何の根拠もない、かすかな希望を抱えて、しばらく彼女への連絡は

とらないことを心に決めた。

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